作品紹介
この作品を書かれた柳井雅和先生はゲームやアプリケーションの開発やプログラミング系の記述書を執筆されています。そんな技術者ならではの内容が盛り込まれたミステリー作品です。
主人公は人材派遣会社を経て、プログラマーの転職を扱うベンチャー企業を企業。取引先に送り込んだプログラマーがデータを暗号化して、身代金を要求してくる事件が起こる。無事に解決できるのか?!
次々に展開されていくスピード感は読んでいても先が気になってしまうほど面白い作品です。
2016年に発売された本ですが、今読んでも楽しめる内容となっております。
話の内容
安藤裕美は大手人材派遣会社で勤務していた。大学生の頃は男勝りの性格で彼氏に振られたりもしたが、仕事熱心で営業成績もよく1年も経つと上司も一目置く猛者となっていた。
そんな時、社内でコンペが開かれた。常々、プログラマーを会社に紹介する際に彼らは技術はあれど口下手な人物が多いと感じていた。そこで、人事部を通さず直接現場の人間がプログラマーが描いたコードを見て採用するという企画書を提出したのだ。
その企画書を外部顧問の東城院加奈子の目に止まり、起業してみないかと声をかけられる。上場企業の立場を捨てて、ゼロからの仕事だ。一瞬迷いはしたものの起業をその場で決断するのだった。

気の強い女は嫌いじゃないぜ・・・

俺も〜❤️
起業し、2年過ぎる頃にはサイトのアクセス数も伸び、安藤は新たな新規顧客を開拓していた。
安藤が外回りから疲れ果てて会社に戻ると取引先のメディログの日比野社長から電話が入った。なんと、紹介した中村真司が不正をしたので情報を開示してほしいとの連絡だった。とりあえず、現状を把握する為にメディログに駆けつけようと会社を飛び出した。
メディログは大手企業から分社化された子会社だ。社長の日比野、日比野がいた会社から一緒についてきてくれた3人が経理の森保・営業広報の高須・プログラマーの木村、日比野がいた会社に派遣できていた凄腕の梶、安藤の会社から紹介した9人の小宮・知念・勝山・三崎・森光・大関・赤崎・岩島・そして中村。
日比野から聞いた話では、中村はメイン・バックアップを含め全てのデータを暗号化し、解除してほしければ7000万円支払えとのことだった。期限は2日後。支払いがない場合はデータベースが人質に取られたことをネットに流す。一度炎上してしまえば、立ち直ることは難しくなるだろう。

データを人質にしたのか。犯人は中村。本人を見つけるか、ロックを解除すれば解決だな。
安藤はメディログに行き、日比野社長に中村の情報を渡す。その後現場をまとめている梶から話を聞くことにした。
梶は全てのアクセス権限があるのは、自分と社長の日比野だけだった。どうやって中村はアクセスしたのかは分からない。今、現場の人間で解除にあたっているが、出来るかどうかも分からない。今も外からデータにアクセスし、自由に書き換えを行っている可能性もある。最善を尽くすしかないと話してくれた。安藤は日比野の元に戻り、中村の個人情報を渡して、自分の方でも中村の行方を追ってみますといい、メディログを後にする。
安藤は履歴書に記載された住所に向かうと、中から老女が出てきた。中からは奇声を発する男の声が聞こえてくる。中村真司がいるかと尋ねると、老女は奇声を発していた男に目を向ける。男は中村とは似ても似つかない人物だった。老女は息子の名義を金に換えていたのだった。売った相手の情報を尋ねると老女は帰れと怒鳴りつけ包丁を振り翳してきた為、安藤は慌てて逃げ出した。
その後、安藤は東城院に連絡を入れ、現在の状況を説明した後マンションを訪れると鹿敷堂というプログラマーを紹介され、一緒に事件を調べることになったのだった。
二人はまず中村の前職である会社に行ってみることにした。鹿敷堂は移動中の間に中村とメディログの情報に目を通した。

鹿敷堂にロックを解除してもらうとかかなぁ?
八島優一
彼の高校時代は友達もなく、卒業式にすら挨拶の一言も発することなく学校を去るような生活だった。唯一の楽しみはプログラムのコードを書くことだけ。周りに詳しい人などいない田舎だったので、雑誌を見ながら思いを馳せていた。
両親に無理を言って東京の専門学校へ行かせてもらうことになるも、レベルの低い学校だった。それでも八島は授業では一番前の席を陣取り、終業後は学校の図書室へ足を運び専門書を読み漁っていた。
それを見た教師が質問があれば聞いてもいいよと声をかけると、八島は授業以外で質問してもいいのですか?と驚愕する。それほど八島はコミュニケーションというものを知らなかっったのだ。
卒業する頃には現役の技術者に劣らないほどのレベルに達していた。しかし、就職するには面接という関門があったのだ。社交性のない八島は何社も落ち続けたが、なんとか大手企業の下請けをする仕事に就くことができた。
入社後、八島の才能は花開く。派遣された仕事場で認められ責任のある仕事を任されるようになる。業務に入れば、コミュニケーション能力の低さはそれほど問題になることはなく、東京で数年過ごした。

就職できて良かったな。努力が報われたな!
八島は大手会社に出向いてとあるプロジェクトに参加していた。プロジェクトのリーダーである高沢は高学歴で女性ウケする容姿、皆に仕事を割り振っていた。笑顔と言葉で全員の士気をあげ、八島もその期待に応えようと思った。
プロジェクトは順調に進んでいたが、ある日高沢がコンサルタントの武山を連れてきた。10日ほどたった頃、八島は高沢から声を掛けられ会議室へ連れて行かれる。そこには武山が座っており、調査した所不正を発見した為、契約終了と言い渡された。八島は非難の声をあげようとしたが、高沢は簡単に八島を切り捨てたのだ。しかも、所属していた会社にも首を切られることとなり泣き寝入りするしかなかった。

なんてことだ。。八島かわいそうだな。
ところで安藤はどうした?
安藤と鹿敷堂は中村真司の前職へ尋ねると井沼という男が対応してくれた。安藤は新しい職場でトラブルを起こした為、どういった人物だったか教えてほしいと言った。しかし、井沼は個人情報のため詳細はお答えできないと言う。30分ほど交渉したが、収穫がないまま席を立つことになった。
落胆している安藤に鹿敷堂はお手洗いに立った際に、受付嬢から情報を聞き出したと告げる。この会社はいわゆる名簿屋でオフィスの中に社員はほとんどおらず、人相の悪い男が時折出入りしていると言う話だった。
中村はこの会社で名義を買い、日比野の会社に中村に偽装し潜り込んだのか。安藤は自分の会社が反社会の抜け道に使われたことは間違いないようだ。
二人はさらに中村の過去に遡って調べることにした。しかし、もう一個前の会社に連絡した段階で中村真司という社員がいた形跡はなく、情報が途切れてしまったのだった。安藤は鹿敷堂に腹案を尋ねると動機が分からないという。
中村は就職するまで動かせるお金がある事を知らなかったはずだ。メディログに内通者がいるのではないか?僕ならメディログの全社員の借金の有無を調べます。多重債務があればお金が必要になるはずです。もちろん日比野社長も調べたほうがいいでしょう。安藤はメディログのメンバー達を思い出す。

確かに社長も犯人の一味の可能性があるな。
八島優一
八島は冤罪で首を切られた後、何もする気が起きず引きこもっていた。ただ、ずっとそうしてる訳にもいかず、履歴書を書き会社に面接に行くも前職の辞めた理由を聞かれ、職につくことができなかった。正社員を諦め、派遣会社に登録しようとしてもやはり離職理由を求められた。仕方なく派遣会社の質を下げていった。対応はおざなりで離職理由も求められなくなったが、そんな会社で大丈夫かと不安になった。八島はまともに働かない日々が続き、どんどん思考が低下していった。自分の技術で人のためになる事がしたいと願っていた自分とはかけ離れていた。そんな中、評判が悪い派遣会社から一つの会社を紹介された。生きていくには金がいる。会社を選んでなどいられなかった。派遣会社の社員と共に紹介された会社を訪ねることになったが、その社員は金髪にピアスという出立ちだ。彼が言うには得意先だから人見知りでも大丈夫だと言う。そいつが言うように、少し責任者と話しただけで紹介された会社で働けるようになった。

金髪にピアス。大丈夫か?
次の日、八島は仕事に向かった。出社して1時間程経つと受付から堅気の人ではない出たちの男が現れ、名護と名乗った。名護は八島にいくつかのテキストファイルが入ったデータを名寄せするプログラムを作れと命じた。派遣先の会社は名簿屋だったのだ。3ヶ月ほど経った頃、名護から派遣会社を辞めてうちの社員になれと言われ、八島はその話を受けることにした。
社員になるととある会社に派遣社員としていく事となった。名護はそこから名簿を盗んでこいと言う。違法だと気づくも、名護から離職理由を業界に吹聴すると脅され断ることができなかった。
それから八島は派遣社員として様々な会社に潜り込み、名簿を盗む仕事が続いた。派遣先でプログラムを書き換え、継続してデータを盗めるように不正なコードを追加していった。八島の会社は名簿屋だけではなく、戸籍の売買や違法な人材派遣なども行なっているようだった。
最初の頃は悔いて嘆きもしたがが、感覚は鈍麻していき、いつしか地下世界の住人に成り果てた。

八島・・・。もう戻れないのか?
一年以上経ったある日、名護から八島が以前働いていた大手会社の裏事情を教えてもらった。詳しく聞きたいなら名護の舎弟になるのが条件だと名護は言う。
八島は悩む。落ちてしまえばもう表の世界には戻れない。でも八島は冤罪でクビにされた真実を確かめたかった。何故、あんなにも尽くしていた会社や人に見捨てられてしまったのか。どんな理不尽な理由があったのか。八島は名護の舎弟になることを選んだ。
名護の話によると、派閥争いに裏金造りが行われており武山とい偽のコンサルタンを使ってその報酬を派閥のものとした。八島はその茶番の被害者だったのだ。八島が尽くした高沢は自分を踏み台にして出世したのかと怒りと悔しさが込み上げてきた。しかし、高沢もまた口封じで首を切られたという。だが、手切れ金を渡されその金で渡米しベンチャー企業に潜り込み、うまく立ち回って日本法人の社長まで上り詰めたと言う話だった。

高沢。悪運の強い奴だな。
安藤の方はどうなったのかな。
安藤達は借金の有無の確認の連絡を待っていた。そこに日比野から自己破産をした人物がいたと連絡が入る。信じられないと驚いている安藤に対して、鹿敷堂はそいつは中村と同じように戸籍買っていたのだと推理した。自己破産の情報を元にその人物の住所を訪ね、別人であることを確認した二人は翌日、メディログに記載されている本人の家を訪ねることにした。
次の日、二人は細い路地に入った古いアパートの前にいた。鹿敷堂の手には大家を騙して借りてきた鍵が握られていた。犯人の部屋に忍び込んで身分を偽っている証拠と中村とのつながりを探すことにしたのだ。安藤は部屋の中を探し、鹿敷堂は部屋にあるパソコンを確認していた。そして、トイレの点検口から黒いビニールに包まれたものを発見した。
中には免許証、保険証、年金手帳が入っていた。免許証には見知った顔が写っており、八島優一と記載されていた。保険証には名簿屋の会社名が記載されており、八島が犯人だと裏付けるものだった。

犯人はあいつに決まりだな。もうわかるよな?

え?誰?わかんないっすよ〜涙
(本当にわかってるのかな?)
犯人はわかったがなぜ事件を起こしたのか?不法侵入中の二人はとりあえず免許証などは写真にとって元の場所へ戻し、部屋を後にした。近くのファミレスでこの後どうするか考えていた。安藤は犯人を呼び出して話をすると言う。鹿敷堂は危険だと思いつつも安藤にボイスレコーダーを渡す。
安藤は電話で犯人をうまく呼び出すことができた。指定された喫茶店に着くと鹿敷堂は入り口近くの席で見守り、安藤は奥の席へと入っていく。鹿敷堂は何かあれば躊躇わずに呼んでくださいと声を掛けた。30分程すると犯人が喫茶店に入ってきた。
「安藤さん、どうしたんですか?」男は尋ねる。安藤はボイスレコーダーのスイッチを入れ話し始める。
「現状はどうですか、梶さん」安藤は梶の様子を伺う。全データを改ざんできる人間は日比野社長と梶。梶が共犯者ならば簡単に暗号化することができるのも当然だ。メディログの技術者が必死に調べても特定できるはずがない。素知らぬ顔で事件解決の陣頭指揮をとっていたのだ。

やはりな・・・。(梶だったのか!?)
暗号は未だ解けず、バックアップを使うにしても現状の6、7割しか復旧できない。再入力をさせるアプローチで乗り切れないか検討中だと梶は真面目な顔で答えた。
データ復旧しているのは入金がなかった時の地位確保の保険なのか?そもそも偽名だからといって犯人なのか?まだ安藤は確信が持てない。もう少し聞き出そうと話を続ける。
「最終的にはどうしたらいいと考えていますか?」安藤が尋ねると、梶はデータ復旧させるのが最善だが期限に間に合わなければ中村に金を支払うしかないと答える。安藤は気力を振り絞り言葉を続ける。
「失踪した中村以外に、社内に共犯者がいた可能性がある」安藤の話を梶は一蹴する。しらを通すつもりの梶に安藤は「日比野社長とは違い、私は警察にこの情報を持ち込む準備がある」と伝える。
梶は安藤を警戒している。元々の計画にはない安藤の存在がどんな情報を得たのが確認する為にわざわざ時間を割いて喫茶店まで来たのだ。そこで安藤はさらに梶を追い詰める。
「梶さん。いや、八島優一さんと呼んだ方がいいですか?あなたが中村の共犯者ですよね。」

安藤は梶を説得できるのか??
八島はメディログに潜り込んだ時のことを振り返る。日比野社長は社会に貢献できる仕事がしたい情熱的に理想を梶に語った。八島がかつて自分の技術で人のためになる仕事がしたいと願っていた事を思い出した。日比野社長は是非新しい会社のCTOになって欲しいと告げた。
元の世界に戻りたいと八島は名護に頭を下げた。名護は1億用意すれば足を洗わせてやると言う。絶望的な気持ちになりながら必死に考えをめぐらせる。猶予は1年と告げられる。こんなチャンスは2度とこない。
打開策を思いつかないまま猶予の1年が近づく。そんな時、自分を陥れた高沢からメールが届いた。日々の社長のインタビュー記事に小さく載った自分の写真を見つけた高沢が偽名を使って働いている八島に金の無心をしてきたのだ。心の中に溜め込んだ憎悪が噴き出してくる。
八島は自由を得ると同時に高沢へ恨みを晴らす方法を思いつく。身代金、脅迫、暗号化、安藤の会社を利用し無関係の人間を招き入れる。会社には7000万円の動かせる金と八島が貯めた3000万円。
1億円を準備できる計画が出来上がっていく。

高沢?!あいつを計画に組み込んでいくのか
安藤は話を続ける。「八島優一。それが梶さんの本名ですね?八島と中村は名簿屋で繋がっています。
中村はうちの会社を使ってメディログに入り込み、脅迫事件を起こし失踪…」と話を続けようとする安藤に八島は「想像力が豊かですね。僕は梶ですよ。じっくり話し合いして誤解を解きましょう」と言って、安藤の腕を取り奥の部屋に連れ込もうとする。
そこに「警察を呼びますか?」と鹿敷堂が声をかける。鹿敷堂はナイフをチラつかせながら席に戻るように促す。八島は諦めて席に着く。鹿敷堂が続きを話始める。
「あなたは身分を偽り、梶と言う名でメディログに入った。中村も同じように身分を入手して無関係を装うために何度も採用したことがある安藤の会社を使い、メディログに入社させた。そして今回の事件を起こした。」
八島は「僕は梶です。八島という人物ではありません。」と否認する。安藤が免許証の写真を見せようとすると鹿敷堂に止められる。不正に入手した証拠を見せればこちらが不利になると気が付く。
「僕たちがあなたの名前を知ったのは、中村役の人間にメールをもらったおかげなんですよ」

え〜〜!!鹿敷堂は中村と繋がってたの??嘘でしょ〜
八島も安藤も困惑した顔で鹿敷堂を見る。
「中村さんは安藤さんの個人アドレスに私用のアドレスを使い、お礼がしたい、お暇ですか、この縁を大切にしたいと積極的に連絡してきてました。安藤さんもまんざらではなかったようですが」
安藤があっけに取られていると鹿敷堂は芝居に付き合えと目配せしてくる。安藤はぎこちなく頷く。
「個人的なものだったのでメディログに開示してません。そのアドレスに中村さんの単独犯になっていることと警察に通報する予定であることを伝えた所、自分は梶に頼まれただけだと。そして梶は八島という男だ。詳しくはあって説明すると送ってきたのです」
鹿敷堂は八島にメールの画面を見せる。中村から送られてきたメールには梶貴信が八島優一であること、名簿屋の社員であること、自分の入社時に書いたプログラムも八島が書いたものだという証拠もあると記載されていた。
蒼白な顔で八島はでたらめだと認めようとしない。鹿敷堂は「警察に行かずとも、日比野社長にこの件を伝えるだけであなたは終わりだ」と冷たく言い放った。そして安藤に日比野社長へ連絡するよう伝える。

鹿敷堂やるな・・・。もう終わりだな。
でも八島もかわいそうなやつだな
安藤が連絡しようとすると、八島はやめてくれと呟き全てを認めた。
鹿敷堂はコーヒーを一口飲み、種明かしを始めた。中村からのメールは鹿敷堂が書いた偽物であること、八島が自分でコードを作成して中村を入社させ今回の事件を起こしたと推測した。
「僕たちはあなたが事件を起こした背景は知りません。堅実なコードを書くあなたには何か事情があるのでは?本当のことを話してくれれば助かる可能性がある」と八島に取引を持ちかける。
八島はゆっくりと話し始めた。自分が八島優一であること、中村は高沢元樹といい以前会社で不正を働きその罪を八島に被せたこと、失職し名簿屋である名護から真実を聞くために反社会的組織に入ったこと、メディログに入りもう一度表の世界に出たいと願ったこと、そのために1億円必要になったこと、そんな時憎き高沢から連絡がきたこと、復讐と金を同時に手にいれる方法を思いついたこと。
「僕にはこの境遇から逃れるこの計画が蜘蛛の糸に見えたのです。……安藤さん、見逃して貰えませんか。」
安藤は一瞬迷うが「見逃せません。日比野社長に連絡します」と告げるのだった。

見逃してはあげられないよな…。
安藤は電話で日比野に事の顛末を話す。日比野は信じられないと呟きながら話を聞いていた。見逃すことはできないが暗号化を解除してもらうように日比野社長に説得して欲しいと伝える。すると喫茶店にスマートフォンを片手に息を切らした日比野社長が現れた。
「なぜなんですか、梶さん」日比野は嗚咽を堪えながら尋ねる。
「私は他人のために何かをしたいから仕事をしてます。他人を不幸にしたくない。反社会的組織にお金が渡れば誰かが笑顔を失う。この電子お薬手帳は人に何かあったときに命を救うこともあります。暗号化されたままではそうした人々が命を落とす可能性があるのです。同じ理想を目指していた梶さんなら、私の思いがわかるはずです。暗号化を解除して貰えないなら会社を潰す。それが私の結論です。」
八島は「全て終わりました。やはり無理だったのですね。表の世界に戻ることは」といい、「暗号化は解除します。身柄は警察に突き出すでもして下さい。それだけの罪を犯しました」と悲しそうに言った。

事件解決だな。しかし…
解決編
「八島さん、約束を果たしますよ」八島は「え?」と疑問の声を漏らす。構わず鹿敷堂は続ける。「真実を話すなら助かる可能性があると。ただし条件があります。日比野社長と一緒に仕事をすることと八島優一に戻ることを断念してもらいます。」
鹿敷堂は筋書きを説明する。安藤が中村の居所を発見し、日比野は梶と一緒に中村に会い説得し解除キーを手に入れた。日比野と梶は会社に戻り、暗号化を解除する。その後、梶は責任を取り辞職する。
日比野と八島は頷くのを確認し、鹿敷堂は続ける。
八島は名簿屋から未使用の名義を1つ準備し、その人物と八島自身と八島が過去に使った名義の情報を名簿屋から完全に抹消します。そして新たな名義の人物で原付免許を取り、それでパスポートを作成して下さい。出来上がるまでに八島と梶の貯金を全て引き出し、航空券を準備して下さい。そして、飛行機が飛び立つ日の昼に作戦を実行します。

果たして八島を助けられるのか?!
鹿敷堂の作戦とは高沢を嵌めて名護とその組織に警察を介入させるというものだ。
名護に1億円準備できた事をに伝え、高沢を受け取りに指名。自分の後任として使えるか確認するため1000万ずつ分けて渡し、八島の安全確保のためこちらも信頼できる運び手を準備すると連絡するよう八島に指示した。
うまくいくのか不安を抱え十日が経過した。鹿敷堂は空き部屋が隣り合っている部屋を探してきていた。空き部屋で待機しると約束の時間に高沢が現れ、隣の部屋の扉をノックする。「中村真司です。例のお金の件で来ました」と隠しカメラから聞こえてくると中から女が顔を出す。その女に高沢は中村の名前の名詞を差し出す。
「あんただね!息子の名前を語り詐欺をしてたのは!殺してやる!!」いきなり罵声が浴びせられた高沢が呆然としていると物陰から警察が現れ、高沢を取り押さえた。

え?中村の母親??どうなってる?
鹿敷堂は本物の中村の母親に接触し、偽中村を警察に突き出す方法があると籠絡した。母親に振り込め詐欺の連絡があったと警察へ連絡し、指定の場所へ金を持っていき警察と一緒に待ち伏せているよう指示した。そこへ高沢がノコノコと現れ捕まったのだ。
鹿敷堂は中村が渡した名刺から名簿屋に調べが入ることから名護も捜査の対象となるだろうと告げる。
「八島さん、このまま空港へ行きほとぼりが冷めるまで海外で過ごし、新しい人生を歩いて下さい。これからは誰かを陥れる仕事ではなく、社会に役に立つ仕事をして下さい。あなたが犯した罪を何らかの形で償わなければなりません。」
八島は涙を浮かべて、肝に銘じますと答えた。鹿敷堂は信頼できる人を周囲に持ち、危機に陥る前に頼り孤立しないことが大切だとアドバイスをし、八島を見送った。

八島〜〜。よかったなぁぁぁ
安藤と鹿敷堂は空き部屋を後にしながら話をする。
「東城院さんが僕をあなたに紹介した理由がわかりました。あなたは有能だからこそ人を頼ることが欠けている。僕は以前東城院さんの善意に助けられました。だから僕をあなたにつけたのではないかと思います。」
安藤は母に甘え下手ねと言われた事を思い出す。男勝りの性格で恋人との問題も一人で解決しようとして振られたなぁと。
「強情で見栄っ張りで可愛げのない性格。それはそれで魅力的だと思います」そう告げた鹿敷堂の顔を見る。そういえば昔の恋人に顔が似てる。安藤は僅かに頬をゆるめた。
感想
時間との勝負の中、物語がどんどん展開していくのでどんどん読み進めてしまいます。本文中には鹿敷堂の過去にも触れおりより面白く物語に関わってきます。なぜ鹿敷堂が詐欺師のような手腕で情報を手に入れたり、八島の部屋に進入できたり色々なことができるわけも分かります。
不幸なままで終わらないラストにも楽しい気持ちで読み終えることができます。この話にはエピローグが続いて描かれていますが、今回は掲載しておりません。実際の本を読んで楽しんで頂ければと思います。
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